企画上映

戦後80年:アジアと日本と戦争

第1期:戦前・戦中

戦後80年の節目に、日本とアジア各国の双方の視点から戦争を見つめます。


7月16日[水]~7月21日[月祝]
7月24日[木]~7月27日[日]、7月30日[水]

◎すべて福岡市総合図書館収蔵作品
◎特に表記ないもの35ミリフィルム上映

観覧料: 
大人=500円/大学生・高校生=400円/中学生・小学生=300円
・福岡市在住の65歳以上の方・わたすクラブ会員=250円(要証明書・会員証原本提示)
・障がい者の方および介護者の方1名=無料(要証明書提示)


 2025年は終戦から80年の節目になります。7月は、戦前・戦中に作られたり、後年その時期を描いたりしたアジアと日本の映画を横断的に、双方の視点が入り混じるように特集します。この時期は、政治的な意図をもって製作されたプロパガンダ映画が目につきます。ただ、個々の映画を見てみるとただ当局の意図を喧伝するだけではなかったことも見つけることができます。たとえば亀井文夫(1908-1987)による「戦ふ兵隊」(1939)は、軍部の依頼で製作されながら、描き方が厭世的という理由で当時公開中止になってしまいます。
 映画はカメラで撮影されます。レンズとフィルムという機械の目をとおしてとらえられた世界は、冷徹なまでに客観的です。撮られたものは、依頼した製作者や、時には作者の意図をも超えてしまうことがあります。これは、映画というメディアに生来備わった重要な性質です。
 3期に分けて約30本の映画を上映予定です。そんなにたくさん、遠い過去の出来事を今更古いフィルムで見るなんてと思われるかもしれません。今回の特集では記録映画だけではなく、劇映画も多く盛り込みます。そこには脚色も演出もありますし、一見戦争と関係ない作品もあります。勇ましい、もしくは疲れ切った前線を取材できたとしても、そのときの市井の人たちの暮らしというのは、しばしば見落とされます。当時のことは、時間が経ってからでないと語りえないこともあります。フィクションだからこそ伝えられる真実もあるでしょう。ある時点に正義であったことが、後年振り返って別の批判にさらされることもあります。記録された映画は、時代や見る人の解釈によって常に変化します。
 日本もアジアの国々も20世紀の後半は、社会のあらゆる側面に戦争の影響を受けつつ、映画を作ってきました。8月には「終戦・戦後」の日本映画を、9月には「その後のアジア、戦争の傷跡」と題して、アジアの映画を中心として、3つの期間に分けました。紛争や戦争はずっと続いています。そのきっかけは20世紀の戦争に端を発するものが少なくありません。7月に上映する「苦悩のリスト」「子どもたちはもう遊ばない」も、問題の源流をたどれば、当時の戦争とその戦後処理の問題がいまだに世界に影響している一例でもあります。
 遠い国の、遠い出来事が、地続きであるということと、20世紀半ば、まだ新しいメディアであった映画は負の面でも、正の面でも大きな役割を果たしていたことを知る機会になれば幸いです。   (学芸員・杉原)

7/17[木]11:00 27[日]11:00

五人の斥候兵 
Five Scouts


監督:田坂具隆 出演:小杉勇、見明凡太郎
1938/日本(日活多摩川)/白黒/70分/16ミリフィルム上映

 



日中戦争の最中、最前線への偵察を命じられた斥候兵たちが、敵の舞台に包囲されてしまう…。実話をもとに田坂具隆が戦場におけるヒューマニズムを追求した作品。日本の戦争映画において初めて国内外で芸術性を高く評価された。
〈フィルムの状態が悪く映像・音声の見づらい・聞きづらい箇所があります。あらかじめご了承ください〉

7/17[木]14:00 26[土]14:00

支那事変後方記録・上海 Shanghai

監督:亀井文夫
1938/日本(東宝文化映画部)/白黒/77分



陸軍省が中国での戦果を記録して戦意昂揚を目して製作した。溝口健二監督「滝の白糸」のカメラマン三木茂が当時の上海、イギリス租界、廃墟となった町や人びとを冷静にとらえている。亀井文夫は三木茂の映像を元に構成・編集をおこなった。戦前のドキュメンタリー映画のなかでも屈指の作品。

7/18[金]11:00 27[日]14:00

戦ふ兵隊  
Soldiers at the Front

監督:亀井文夫
1938/日本(東宝文化映画部)/白黒/66分/16ミリフィルム上映

 



陸軍省情報部の後援により制作されたドキュメンタリー。武漢攻略作戦に従事する兵士たちの日常の姿が中心になっており、映画の中に戦闘シーンがない。むしろ歩き疲れた兵士たちと、中国民衆の悲惨な姿が描かれていることで軍の怒りを買い、上映禁止となった。亀井文夫の代表作のひとつ。

7/16[水]14:00 26[土]11:00

陸軍  
The Army 


監督:木下恵介 出演:笠智衆、田中絹代
1944/日本(松竹大船)/白黒/87分



火野葦平による同名小説の映画化。戦争の時代をくぐり抜けてきた日本を、高木家三代の歴史とともに描いた大作である。もともと戦意高揚を狙った作品でもあるが、本作のクライマックスは息子の出征を母(田中絹代)が追いかけるラストシーンにある。このシーンは当時の福岡市で撮影されており、貴重な映像資料でもある。

7/19[土]14:00 24[木]11:00

あの旗を撃て 
Dawn of Freedom


監督:阿部豊 出演:大河内傳次郎、大川平八郎
1944/日本(東宝)/白黒/108分/日本語字幕付き

 



太平洋戦争中のフィリピン・マニラ。12歳の少年トニーは、車にはねられ歩けなくなる。トニーは日本兵・池島と親しくなり、池島はトニーを軍医に見せ、手術することになる。陸軍省の後援で、ほとんどがフィリピンで撮影されている大作映画。フィリピンの大監督ヘラルド・デ・レオンが協力している。

7/18[金]14:00 20[日]11:00

桃太郎・海の神兵 
Momotaro, Sacred Sailors

演出:瀬尾光世
1944/日本(松竹動画研究所)/白黒/74分



海軍省からの依頼で巨額の製作費と人員を投じ、スマトラのパレンバン攻略における海軍空挺部隊の活躍を、桃太郎の童話になぞって制作された日本初の長編アニメーションで、戦争末期の1945年4月に公開された。のちに、手塚治虫がアニメ制作を志すきっかけになったと語っている。

7/19[土]17:00 25[金]14:00

神のいない三年間  
Three Years Without God

監督:マリオ・オハラ 出演:ノーラ・オノール、クリストファー・デ・レオン
1976/フィリピン/カラー/125分/日本語字幕付き

 



1942年。ロサリオの恋人クリスピンは抗日ゲリラになるため村を去る。ある日道に迷った日本兵マスギがロサリオの家にやって来る。酔ったマスギはロサリオを襲うのだが、マスギはロサリオを真剣に愛するようになる。42年から45年までの日本占領下を舞台に、日本軍人とフィリピン女性の和解と愛を描くという貴重な作品。70年代を代表するフィリピン映画の1本。

7/19[土]11:00 30[水]11:00

族譜
The Genealogy


監督:イム・グォンテク 出演:チュ・ソンテ、ハ・ミョンジュン
1978/韓国/カラー/113分/韓国/日本語字幕付き



日本統治下の朝鮮半島。大地主ソル・ジニョンは、創氏改名により600年続いた族譜に日本式の新たな姓を書き込むことを拒否する。日本側はソルを説得すれば一気に改名が進むと考え、心優しい青年・谷を派遣する。京城(ソウル)に生まれた梶山季之が1952年に発表した短編小説を、韓国の巨匠イム・グォンテクが映画化した。

7/20[日]14:00 30[水]14:00

無言の丘
Hill of No Return


監督:ワン・トン 出演:ポン・チアチア、ヤン・クイメイ
1992/台湾/カラー/175分/日本語・英語字幕付き



1920年代の台湾。貧しい農婦のアチューとアウェイは、日本人が経営する金山で働き始めるが、生活は過酷なものだった。日本統治下の金山の町を舞台に、そこに生きる大勢の日本人や台湾の人々を赤裸々に描いた大作。本作と「村と爆弾」「バナナ・パラダイス」の三本は、ワン・トン監督が台湾の庶民の歴史を描いた〈台湾三部作〉として知られている。

7/21[月祝]11:00 25[金]11:00

少年義勇兵 
Boys Will Be Boy’s, Boys Will Be Men

監督:ユッタナー・ムクダーサニット
出演:ルンルアン・アナンタヤ、ウォラヨート・パニットタイパブ
2000/タイ/カラー/121分/日本語・英語字幕付き



1941年、タイ南部の町チュムポンで高校生を中心に義勇軍が組織される。同年12月チュムポンに上陸した日本軍に対し、義勇軍は勇敢に戦うのだった。史実を元にした作品。ただし第二次大戦中タイは中立国であり、日本軍はタイを通過してビルマに向かうために上陸したものだったが、連絡の遅れにより戦闘が勃発した。少年たちの青春をさわやかに描いた感動作。

7/21[月祝]14:00 24[木]14:00

アドナン中尉  
Lieutenant Adnan

監督:アズィス・M・オスマン
出演:ハイリー・オスマン、ウミ・アイダ
2000/マレーシア/カラー/133分/日本語・英語字幕付き

 



イギリス植民地時代のマレーシア。幼い頃から利発だったアドナンは、軍隊に入り頭角を現す。1941年12月、小隊を任されたアドナンは、上陸してきた日本軍の残虐行為を目の当たりにし、物資も不足するなか激しい戦闘が始まる。アドナン中尉は実在の人物である。本作はマレーシア国防省が製作し、日本軍によるマレー上陸作戦をマレーシア側の視点から描いている。

上映スケジュール

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